2022年読んだ本の話
今年こそはSNSを更新しようとしても更新ができていない。
29年生きてきて自分の怠惰さには自覚があるつもりだが、改まる気配がない。
今年のことを記憶できるように、各月の本だけでも記録しておこうと思う。
・1月
金原ひとみ『アンソーシャル ディスタンス』2021年、新潮社。*1
コロナ禍の閉塞した世の中で生きる女性たちの短編集。冒頭作の仕事中もお酒が手放せなくなる女性を描いた「ストロングゼロ」が注目されるが、その中でも平凡な性交渉を「ほっけの干物」と描写するなど、題材のインパクトに負けない描写に感服。
まだコロナと仲良くなれない今年では、この作品の描写はまだ笑えない。
・2月
すでに新書大賞を受賞しており、今年の一冊といえる。サラ金がサラリーマンの男性から、団地の専業主婦といったターゲットの変遷や、消費者金融の多元化が銀行との結びつきを強化したことによるなど業界の消長がよくわかるだけでなく、なぜお金を借りざるを得ないのか、またお金を貸す側はどのような問題を抱えているのか、多角的に述べながら内容が簡潔なので、非常にわかりやすい。
サラ金は身近になったがゆえに、生活保護などの福祉よりも先に思い浮かべられるようになったのは、社会保障として反省されるべきであろう
・3月
読んでなかった。
・4月
蒼穹の昴から続くシリーズの累計5部目。人気キャラクターが出てくるのでどんどん読めるが、溥儀がどうしても魅力的に感じられず。どうやって幕引きを図るのだろうかと思ってしまった。
一番気になるのはやはり龍玉だ。龍玉が今の共産党政権に渡ったとも、台湾の国民党政権の手にあるともいえる状況でない以上、どう処理するのか。
あと急に出てきた出稼ぎの日本人がどうなるのか、せめて彼らたちは良い結末で終わってほしい。
・6月
市川房枝 - ミネルヴァ書房 ―人文・法経・教育・心理・福祉などを刊行する出版社
市川房枝の評伝。彼女の妥協という言葉は、戦前において政治家への陳情のみならず、軍部に設置した組織への参加にも及ぶ。とはいえ彼女は戦争を無批判に支持したわけではない。彼女は中国に赴き、戦争の実相を目の当たりにしている。それでもなお、東条政権にも関与する。彼女は政権への関与を通じて、女性の権利拡大、そして世界平和を果たそうとした。
そうした姿勢は、敗戦後公職追放という形で影響を及ぼす。
彼女が夜深くまでトランプ占いに興じる姿は、いかに占領下という先を見通せない時代であったかを物語る。
彼女の政治姿勢は非常に興味深いがそれだけでなく、彼女の発言は普通に面白い。
彼女の同志が津田塾大学の総長に就任した時の演説などは本当にすごいとしかいえない。
・7月
2022年の事件として忘れられないウクライナ侵攻。本書ではロシア人がどんな生活をしているのか「日常」の生活を描写している。なぜこんな惨い侵攻が行われ、そして今もなお続いているのかそのことへの回答はないが、戦争を行っているのも人だということにいやという程気づかされる。
・8月
これまで色物が多いインテリジェンスの歴史書の中で、ちゃんと参照されやすい本が出てよかった。とはいえ、有馬哲夫などが注釈に出てくるとWILLかと勘違いしてしまう。
・10月
1968年という時期は、今もなお人々の関心が高い。なぜあそこまで世界大で反政権の動きが起こり、いくつかの国では政権交代が起こった。
その代表格はフランスであり、ターゲットはシャルルドゴールであった。
彼はしばしば傲岸不遜と称されるが、彼の娘への愛情を見るとやはり一面的に見れないなと思わされる。
・11月
Qを追う 陰謀論集団の正体の通販/藤原 学思 - 紙の本:honto本の通販ストア
トランプ前大統領が訴追されそうになる中で、注目が集まるのは陰謀論の台頭である。
前者は陰謀論がどのようなものであり、どうした政治姿勢であると「はまって」しまうのかを分析したものである。本書の結論は極めて真っ当というか、ありきたりといえる。とはいえその結論を自らが順守するのは結構難しいだろう。
それを感じさせるのがQアノンの信奉者とその大元を追った後者の本である。
特にNYの女性を追った章では、どんどん自ら深みにはまっていく過程が丁寧に記されている。飯星恵子が言っていたが、難しい世の中で1から10までを簡単に割り切ってくれるQアノンは魅力的だろう。
この魅力は世の中の見通しが立ちづらい中であるときほど、抗しがたいものである。
・12月
Evans, Richard Eric Hobsbawm: a life in History 2020, Little, Brown Book Group.
ここまでの本の話はこの洋書を読めたことを自慢したいがために書いている。
エリックホブズボームは、20世紀の歴史など大きな歴史を書いてきた。彼は、さまざまな言語に通じた天才であった。他方で両親を10代のうちに無くし、各国を転々とせざるをえなくなる。(とはいえこのおかげで、ドイツでのユダヤ人の迫害から逃れることができたといえる。)
彼の貧しい出自が、共産党支持させ、彼に経済史というジャンルを開拓させたことは興味深い。
しかし、彼の著作がソ連では翻訳されないなど彼は活動家ではなく、あくまで理論家であった。
また彼はペーパーブックで本を出されることを意識していた。
こうした出自にまつわるエピソードが面白く、結構どんどん読めてしまった。
こまめに本をまとめないといけないなと実感されたので、来年はちょこちょこ頑張ろうと思う。
*1:
https://www.shinchosha.co.jp/book/304535/
に脚注を書きます
*2:
https://www.chuko.co.jp/shinsho/2021/02/102634.html
ここに脚注を書きます
*3:五百旗頭真監修、井上正也、上西朗夫、長瀬要石『評伝福田赳夫』2022年、岩波書店。)
https://www.iwanami.co.jp/book/b583374.html
福田赳夫の評伝。福田の評伝は少なく、田中角栄や大平正芳の陰に隠れがちである。
彼の政策や発言などに先見性があったことは間違えない。
しかし、彼の政策を推進するためには仲間が十分に育つことはなかった。
派閥の排斥論者であった彼が、派閥の閥務に勤しむことで総理の地位を勝ち得たことは、皮肉というほかないだろう。
石橋湛山やケネディが称揚されるのと同じ向きを感じなくもない。
5月
EBPMと言われて久しいが、無根拠な議論はなくなる気配はない。
本書はデータを用いて、どのように論理を展開していくのか丁寧に説明してくれる。
・9月
((小谷賢『日本インテリジェンス史』2022年、中公新書。